この報道に接し、長崎市はいったい何を考えているのだろうか、と思いました。
『台湾代表、長崎式典を欠席 座席配置に』抗議 (台北共同)
→ https://l.smartnews.com/m-8gCjV6PS/woZMAc
8月9日の長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典において、台湾の駐日大使に相当する李逸洋・台北駐日経済文化代表処代表が、台湾代表団の座席を「外交団エリア外」に配置されたことに抗議し、出席を見送られたとのことです。
李代表は、わずか3日前の広島平和記念式典には出席され、台湾側によれば、各国の外交使節と同様に迎えられています。
広島でできたことが、なぜ長崎ではできなかったのでしょうか。
しかも、今回初めて起きた問題ではありません。
昨年、李代表は台湾の駐日代表として初めて長崎の式典に出席されました。その際にも座席の扱いをめぐって台湾側から疑問の声が上がりましたが、李代表は原爆犠牲者を悼み、世界に平和を願う意思を伝えることを優先して出席されました。
それから一年。
なぜ再び、同じような問題を繰り返すことになったのでしょうか。
もちろん、日本と台湾の間に正式な外交関係がないことも、長崎市には長崎市の規則や会場運営上の事情があることも承知しています。
長崎市長も、中国への政治的配慮を否定し、台湾を「長崎と強いつながりを持つ重要なパートナー」と説明されています。
だからこそ、私は問いたい。
ここは外交交渉の場なのでしょうか?
81年前、原子爆弾によって亡くなられた方々を悼み、二度と同じ惨禍を繰り返さないことを世界に誓う「平和祈念式典」です。
その原爆では、台湾の方々も犠牲になっています。
平和を祈るために長崎を訪れる台湾の代表に対して、外交関係の有無によって座る場所を分けることが、本当に平和祈念式典の本旨にかなうのでしょうか。
私は2021年、防衛副大臣として米国のハドソン研究所でKenneth R. Weinstein博士との対談に臨みました。
Weinstein博士は、私と岸信夫防衛大臣を「台湾のbest friends」と評したうえで、日台関係の将来、そして台湾の安全保障と日本自身の安全保障との関係について私に問いかけました。
私はその時、こう答えました。
「台湾は友人ではない。兄弟であり、家族だ。」
“We are not friend of Taiwan. We are brother. We are family of Taiwan.”
あれから5年が経ちましたが、私の思いは何も変わっていません。
その対談では、台湾海峡を「21世紀のアジアにおけるレッドライン」と考えていること、そして、「民主主義国は、民主主義国である台湾を守らなければならない」という考えも申し上げました。
その前年、2020年には、台湾の安全保障を「レッドライン」と位置づけ、当時のバイデン次期米大統領に台湾への支持について「Be strong」と訴えました。この発言は、米国のThe Wall Street Journalの社説でも取り上げられました。
私は、その時だけ台湾を大切だと言ったわけではありません。
私が台湾について長年、強い関心を持ち続けてきた背景には、友情や親しさだけではなく、日本の安全保障に対する強い問題意識があります。
私が本当に懸念しているのは、万が一、台湾有事が発生した場合、それが日本にとって決して「対岸の火事」では終わらない可能性があるということです。
今は亡き安倍晋三元総理は、「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と訴えられました。
私も政治家として、この認識を共有しています。
これは感情論ではありません。地政学の問題です。地図を見れば、その意味は明確です。
台湾と日本最西端の与那国島との距離は、わずか約110キロ。
万が一、台湾海峡で重大な軍事的緊張、あるいは台湾に対する武力行使という事態が発生すれば、その影響が台湾だけにとどまると考えることはできません。
沖縄、南西諸島、そして尖閣諸島。
そこに暮らす日本国民、自衛隊、さらには在日米軍と日米同盟にも深刻な影響が及ぶ可能性があります。
だからこそ、台湾海峡の平和と安定は、台湾だけの問題でも、中国だけの問題でもありません。
日本自身の平和と安全に直結する問題です。
地政学上、そして安全保障上、日本と台湾の未来を切り離して考えることはできない。
だからこそ私は、台湾海峡の平和と安定を守ることが何より重要であり、力や威圧による一方的な現状変更を許してはならないと、これまでも訴えてきました。
同時に、台湾の皆様が、日本が地震や災害などの困難に直面するたび、幾度となく温かい手を差し伸べてくださったことを、私たち日本人は忘れてはならないと思っています。
自由、民主主義、基本的人権、法の支配。
私たちが大切にする普遍的価値を、台湾の皆様と分かち合ってきました。
今回、台湾側は長崎市の対応について厳しい抗議を表明しています。
長崎市側には長崎市側の説明があるでしょう。
私は、中国への迎合だったと一方的に断定するつもりはありません。
しかし、台湾側が自らの尊厳を傷つけられたと感じ、駐日大使に相当する代表が欠席するという事態にまで至った以上、「会場運営上の事情」で終わらせるのではなく、なぜこのような結果になったのか、長崎市には丁寧に説明していただきたいと思います。
そして、来年は同じことを繰り返してほしくありません。
平和祈念式典だからこそ、政治的な線引きを持ち込むのではなく、原爆で亡くなられたすべての方々を悼み、平和への祈りを分かち合う場であってほしい。
最後に、台湾の皆様に改めてお伝えしたいと思います。
日本には、台湾を大切に思っている人々が数多くいます。
少なくとも私にとって、台湾は昨日も今日も、そしてこれからも、友人という言葉を超えた、兄弟であり、家族です。
【関連資料】
■ Hudson Institute(2021年6月28日)
Kenneth R. Weinstein博士との対談
“The Transformation of Japan’s Security Strategy”
「台湾は友人ではない。兄弟であり、家族だ」と発言した当時の対談映像
https://www.youtube.com/watch?v=NI02hGua97Y
■ The Wall Street Journal
Editorial Board
“Japan’s Biden Jitters”
https://www.wsj.com/opinion/japans-biden-jitters-11609197375?eafs_enabled=false
■ Wedge ONLINE(2021年1月18日)
岡崎研究所
「空白の対台湾政策、黙るバイデンに焦る日台」
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/21878?layout=b